世界初!平田オリザさんによるロボットを使ったコミュニケーション教育

菅原です。
3月27日に奈義町文化センターにて奈義町教育・文化のまちづくり監の平田オリザさんによる「ロボット×コミュニケーション」授業が行われました。

講師の平田オリザさんは世界的な劇作家・演出家で、昨今はロボット研究の第一人者である石黒浩さんとアンドロイドが出演する演劇プロジェクトに取り組まれています。 これまでにも平田さんには奈義町の小学校・中学校でコミュニケーション教育として演劇ワークショップを行っていただいていますが、今回は小学4年生から中学1年生の希望者を対象に、世界初!のロボットを使ったコミュニケーション教育を行っていただきました。芸術と科学技術の融合である今回の授業は、東京藝術大学COI拠点事業として開催されました。

会場に入った子どもたちの目の前には一体のロボットが。

社会的対話ロボット「コミュー」です。

笠木義孝町長のご挨拶のあと、いよいよ世界初の授業が始まります。

「今日はみなさんにロボットと演劇を作ってもらいます」

子どもたちは目の前にあるロボットに興味津々。今回のアシスタントとして参加している私が、さっそくロボットと会話してみることに。

コミュー「あなたの趣味はなんですか?」

菅原「私の趣味は、サッカー観戦です」

コミュー「へー、すごーい」

菅原「そうかな」

コミュー「僕は、まだ、生で見たことがないです」

菅原「え、じゃあ、今度行こうよ」

私は東京で小劇場の俳優として活動してきましたが、ロボットとの共演は初めてでした。いやードキドキしました。子どもたちは「すごい」「どうなってるの」と驚いています。コミューは続けてこう言います。

コミュー「と、このように、僕は人と話せるのですが、本当は、それほど頭のいいロボットではないので、実は同じ話しかできません。でも、みんなが、会話の内容を考えてくれれば、違う話にも聞こえますよ。たとえば、こんな感じ」

今度は、コミューの前の席に笠木町長が座ります。

コミュー「あなたの趣味はなんですか?」

町長「私の趣味は、プロ野球を観ることです」

コミュー「へー、すごい」

町長「それほどでもないよ」

今度は野球観戦です。さきほどは、サッカー観戦の持ち物を聞いて「楽しみだね」「はい」「じゃあ、来週行こうか」「はい、そうしましょう」と心待ちにして終わるのですが、町長との会話は野球観戦で酔っ払って暴れている人は恥ずかしいという話になり、

町長「私たちは、そういうことはやめよう」

コミュー「はい、そうしましょう」

と町長がコミューを諭すような感じで終わります。コミューはさきほどと同じ話をしているのですが、話し相手が変わることで会話は全然違う内容になります。

今回の授業では、子どもたちにグループに分かれてコミューとの会話を作ってもらいます。台本にはコミューの台詞が書かれていますが、それ以外は空欄になっているので、穴埋めするようにして台本を完成させていきます。最後の発表では、実際に子どもたちがコミューと共演します。

みんなで話し合って台詞を一つ一つ決めていくグループもあれば、それぞれ台本に書きこんでから一つの台本を選ぶグループもあります。 台本が出来上がったら、一回だけコミューと練習をすることができます。別室に移動するとコミューが待っています。

ロボットとの共演にみなさんドキドキです。コミューは話し相手が言葉につまっても、どんどん会話を先に進めてしまいます。台詞や演技について平田さんからアドバイスをもらいます。

いよいよ発表です。

発表では、コミューを富士山に誘ったり、外遊びに誘ったり、歌舞伎に誘ったり、さまざまな会話が交わされました。コミューをボーリングに誘うグループはこんな会話になりました。

コミュー「えっと、行くときは、何を持っていきますか?」

参加者「ジュース」

コミュー「へー」

参加者「お茶」

コミュー「へー」

参加者「コーヒー」

コミュー「へー、すごーい」

参加者「少しはつっこめよ!」

コミュー「はい」

参加者「気づいたらツッコんで」

コミュー「はい、そうしましょう」

参加者「それが人とのコミュニケーションにつながるんだよ」

ボケる少年とツッコミを知らないロボット、見事な発表でした。

コミューは同じ話をしているだけなのですが、それぞれの発表を見ていると、コミューの個性が変わって見えて興味深かったです。あるグループではコミューが愛らしく見えてきて驚きました。話し相手との関係性によってその人の見え方が変わってくる。全てのコミュニケーションに通ずる本質に迫られたような気がしました。

授業が終わった後は参観者を対象に、平田さんの講話です。

「科学技術が進歩し、これから学校教育の中にタブレット端末が入り、次はロボットが入ってきます。よく『なぜロボットなのか? タブレットとかスカイプでもいいのでは』といった質問を受けるのですが、二次元よりも三次元の方が教育的な効果が高いのではないか、ロボットはいろいろなことができるんですね」

最先端のロボット研究についても話してくださいました。

現在、平田さんは吃音の人、失語症の人、自閉症の子どもを対象にした訓練プログラムを開発に関わられています。自閉症の子どもたちの中には、ロボットだとコミュニケーションが取れる子どもたちが一定数いるそうです。そういった子どもたちにロボットとコミュニケーションを取ってもらうことで、人とのコミュニケーションに少しずつ慣れてもらえるのではないか。

「コミュニケーション能力は遊びの中で培われるものなので、ロボットも遊びのツールのひとつ。なんかのきっかけで人と話すのは楽しいなと気づいてもらえたら」

ロボットを使ったコミュニケーション教育の可能性を感じさせる内容のお話でした。

「ロボットとは何か」「コミュニケーションとは何か」「人間とは何か」。最先端のコミュニケーション教育を受けた奈義の子どもたちは何を感じたでしょうか。世界的な演出家と最先端のロボットに出会い、忘れられない春休みの思い出になったのではないでしょうか。