ナイト・ミュージアム・シネマvol.3「手をなくした少女」を上映しました

カンヌ国際映画祭で受賞し、フランス政府から芸術文化勲章を授けられた、映画監督の深田晃司さんが厳選した映画を上映する「ナイト・ミュージアム・シネマ」も第3回をむかえました。

今回は、アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞、最優秀フランス作品賞をダブル受賞されたセバスチャン・ローデンバック監督を、フランスからお迎えして、監督の初長編アニメーション映画「大人のためのグリム童話 手をなくした少女」を奈義町文化センターで上映しました。
東京での上映に先駆けて、奈義で6月30日に行われたこの特別試写会は、事前予約の段階で申込みが定員数を上回ったため、急遽会場の設営を変更して開催しました。
会場には100名近い方々が来場され、アニメーション映画ということもあって、子どもから大人まで幅広い世代に楽しんでいただきました。

それでは当日の模様をご報告していきます。
「手をなくした少女」はグリム童話に初版から収録されている民話「手なしむすめ」をローデンバック監督が新しい物語として映画にしたものです。
ヒロインの少女は、悪魔の企みで父親に手を切り落とされ、その後、王子と結婚したものの城を追われる身となります。苦難の連続にも屈せず、我が子とともに逞しく生きる少女の姿は生きる喜びに溢れ、とても美しいものでした。

従来にはない作画技法(クリプトキノグラフィー)を用いて、なんと監督たった一人で作画を手がけていることも驚くべき特徴のひとつです。
舞台挨拶のあと、客席から「なぜ一人で制作しようと思ったのですか?」という質問に「私にはお金がなかった、プロデューサーもいなかった、プレッシャーもなかった、だから自由な発想で、そういうことができたと思う」と笑顔で答えるローデンバック監督。
深田晃司監督はとなりで「これは、すごいことです!」とおっしゃっていました。

終演後はローデンバック監督に感想を伝えようと、握手やサインを求める方が列を作っていました。監督も丁寧に会話を交わして、おひとりおひとりに作品に対する思いを伝えながら、サインをする際にはドローイングも描いてくださるなど、じっくり交流してくださいました。
岡山市から来られた40代女性の方は「私はアニメ映画が苦手で、あまり期待していなかったが、これは近年一番泣いたかもしれない。最初から最後まで涙が止まらなかった。ずっとシーンの絵の表現方法に心を揺さぶられていた」と語ってくださり、奈義まで足を運んでよかったと言ってくださいました。

見に来てくださった方に、今回から「鑑賞ノート」の配布をおこないました。
「鑑賞ノート」とは、映画を見て、いろいろなことを感じたり考えたりするための、映画を学ぶための手引きで、フランスの映画鑑賞教育の教材を参考に制作しています。

引き続き、会場を奈義現代美術館に移して、アフタートークが開かれました。
こちらには30名が参加してくださり、トークの中で、実際に目の前でローデンバック監督がスケッチを描く様子を見ていただきました。

貴重な原画を見せてもらったり、原画から動画へ変換する工程を実演していただいたりしました。
手描きの線がそのままスクリーンで躍動する点について、深田晃司監督から質問が向けられると、「使ったのは筆ペンと紙のみ、脚本などはなく、一人でその場、その場の発想で仕上げた」とローデンバック監督が解説され、「観客の脳を信頼して、僕は半分しか描いていないから」と答えられていたのが印象的でした。
水墨画のように見える線が、あるときはリンゴの木に、あるときは少女になって、スクリーンの中に現れます。私たちは風景や物を見るとき、すべてを一律には見ていないのだと、改めて感じました。心や目が奪われるポイントも、色彩も、影も、さまざまな速度も、写実の全景とは全然違うのですが、心や脳をプラスした感覚でみているため、私にはシーンひとつひとつが、まるで、私の心が見ている風景のように映りました。

「映画製作は毎回が冒険。今後も新しい表現に挑戦していきたい!」というローデンバック監督の言葉を聞いた、参加者の30代の男性は「監督の熱い思いに引き込まれた。アフタートークを聞けたことで、表現の意図や作品に対する思いが伝わった」と嬉しそうに話してくださいました。

最後にローデンバック監督からのメッセージです。

奈義での上映は私にとって特別でした。映画祭以外の場所で、日本の普通の観客に初めて見ていただいたのです。業界人ではない、普通の生活をしている観客の皆さんです。
上映が終わり、観客の皆さんを前にしたとき、強い感情が込み上げました。
表面的ではない、深い本質を突いた質問をしていただけたことも印象的でした。
奈義町現代美術館という空間でアフタートークができたことも素晴らしい経験で、聞いてくださった皆さんの反応は、目が覚めるようなものでした。
本当に親切に歓待していただき、山の駅のコテージに宿泊できたことも良い思い出です。
ありがとうございました。
セバスチャン・ローデンバック

(申)