伝えるために伝わらないことを体感する

10月26日に奈義小学校で演劇的手法によるコミュニケーション教育の授業が行われました。6月に引き続き、今年度2回目。講師はNPO法人PAVLICから田野邦彦さんと河野悟さん。アシスタントとして奈義在住で、俳優として青年団に所属し、「老いと演劇」OiBokkeShiを主宰されている菅原直樹さんも参加。
今回はPAVLICの講師の先生がいらっしゃらないと成立しないプログラムの授業実践。俳優が演じる、とはいかにすごいものなのかを目の当たりにしました。演劇×教育のすばらしさを体感できる秀逸なプログラムです。

午前に小6生対象に3コマ。午後からは小4生対象に2コマの授業でした。学年による表現の違いはありますが、会場へ入ってくる時から、すごい勢いとテンションでした。

小6生の授業は「イスから立たせるゲーム」。
目標・内容は、イスに座って本を読んでいる人を、対話によってイスから立たせるため、グループで作戦を考え実践することによって、他者の気持ちを動かすことの難しさを体験し、協調性や共感しあえる関係づくりの大切さを知る、というもの。
本を読んでいる人をどういう立場に設定するか、イス3個の配置をどのようにして、その状況はどのようなものなのか、という場面設定からこどもたちが作戦を立てます。そのうえで、本を読んでいる人を対話や演技によって立たせようとします。

この本を読んでいる人の役をするのが、講師やアシスタントの俳優の先生方。こどもたちとの事前の打ち合わせはなく劇がスタートし、子どもたちのセリフや動作から役を推察して対応されます。子どもたちからのアプローチを、受けたりかわしたり、見事に突き返したりして、1回目はどのグループも立たせることはできませんでした。
1回目の発表を終えてから、講師の先生方から子どもたちへフィードバックされます。この演劇的手法を用いたコミュニケーション教育の授業の際に、いつも述べていることですが、発表に至るまでの話し合いや練習の様子をきめ細かに観察し、過程を肯定し、だからこそさらに発表をよくするためのフィードバックをしてくださいます。
このフィードバックを受けて2回目の発表へ向かいます。2回目に発表する際、子どもたちの発表内容のレベルアップが目覚ましいのです。目指すものが具体的なイメージとしてできていますし、フィードバックをもらっての改善もあり、熱中してのめりこんで話し合いや練習が行われます。そしてついに1グループが立たせることに成功しました!
小6生の発表では、発表を終えた後の全体でのねぎらいの拍手の音がとても大きく、学年全体がまとまって授業に集中し、同級生への仲間意識の高さを強く感じました。

小4生の授業は「ことばのバトル アンチ大魔王」。
目標・内容は、自分たちの好きなものを他者にも好きになってもらおうという思いを伝えようとすることで、価値観の異なる他者になぜ自分たちの思いがいつものように伝わらないのか、どのようにすれば伝わるのかを考えられるようになる、というもの。
何事に対しても「キライ、キライ、ダーイキライ」というアンチ大魔王に対して、自分たちが好きなものを、好きになってもらおうと伝えようとします。作戦を立てる際には、アンチ大魔王のプロフィールも配られ、アンチ大魔王の分析も進んで作戦をたてます。いよいよアンチ大魔王へ対峙します。

子どもたちは、自分たちの好きな思いを伝え、アンチ大魔王に好きになってもらおうと説明します。子どもたちの言葉に対し、言葉の曖昧さや論理の甘さを、アンチ大魔王は的確に突いていき、子どもたちは言葉をあっという間に失い、まさしく地団太を踏み悔しがったり絶叫したり、ルールや講師に対して不満やクレームを訴える子も。今回はどのグループもアンチ大魔王に共感してもらうことはできませんでした。

日常生活の中では自分の思いが伝わるのに、いつものようにではない、非日常であるこの場面で、価値観の異なる他者との出会いを体験し、どのようにすれば他者に思いが伝わるのだろうかと考え始める、という授業の目的が存分に達成できた時間となりました。
自分たちの言葉というか思いが通じない歯がゆさを全身を使って表現する様子に対して、これがノーマルな、とても健康的な小4生です、と講師の先生方からコメントをいただきました。地団太踏んだり、伝わらないことへの不満を声高に叫ぶ様子に心配もしましたが、発表へむけてのプロセスを丹念に観察し、また全国各地での授業実践のなかでの相対的な視点からのコメントに、子どもの近くにいると、いかに表現している表面や結果にとらわれがちになっているのか、ということを深く再認識しました。

次回は2月4日。平田オリザさんが講師です。

(黒瀬)