他者の尊重

10月17日に奈義中学校で、演劇的手法によるコミュニケーション教育の授業が行われました。
講師はNPO法人PAVLICから林成彦さんと河野悟さん。
授業単元名は「エピソードトーク」で、目標・内容は、「地域に住む人たちにインタビューをした内容をもとにして、その人たちに観てもらうことを前提とした創作を行う。他者の言葉に耳を傾けて、思いを尊重しながら汲み取って表現することの大切さを知る。」というもの。

「地域に住む人たち」ということで、奈義町学校ボランティアの方々から5名の方に来ていただきました。その方々のお話を聴いて、その内容を切り取ったり、まとめたりするなど、中学生が自分たちのグループで編集し演出して創作した劇を、お話してくださった方を含めて、みんなの前で発表する、というものでした。

この中1生は昨年度小6生時代から2年続けてこの演劇的手法を用いたコミュニケーション教育の授業を受けてきており、毎回の成長が著しく感じられています。今回も講師評で「会場へ入ってくる段階から、とても期待して来ている」と言われたように、リラックスしつつ楽しみな表情や態度です。
しかしそういった雰囲気がありつつも、地域の方々5名が並んだ前に集まると、ちょっとよそ行きの雰囲気も漂い始めます。さらに、それぞれのグループごとに地域の方お一人が入って、車座になって話を聞いているときには、もっと固くなっている様子も見られます。

実は、地域の方々がそれぞれの自己紹介やご自身のエピソードを語り始めている段階では、この後、この話を基に劇を創作する、ということは伝えられていません。想像はしているかもしれませんが、明確には、なぜお話をしてもらっているのか、何のために聴いているのかはわからない状態です。しかしながら、さすが年度が中盤も過ぎた中1生。姿勢も態度も悪くなく、話をじっと聴いています。

地域の方々から約15分ほどお話を聞いた後で、講師の先生から説明が行われます。
・先ほど聴いたお話を劇にする。
・1分間ぐらいの劇であること。チーム全員が出演すること。ただし人間の役でなくても良い。複数のエピソードをつないでもよい。
・大人は出演しない。
この説明を聞いたとたんに多くの生徒の頭がぐっと上がりました。では1分間追加インタビューを、との指示が出ると、車座の円がぐっと小さくなって、集中度の高まりが見てとれます。

休憩10分とその後の創作時間を15分との指示が出ると、多くの生徒は休憩よりもすぐに相談を始めます。劇を創作をすることが明確にわかってから一気に高まった集中とそれに熱中していく様子から、この時間へのめりこんでいるのがよくわかります。
今までの体験があるからでしょうか、多くの生徒がすぐに立ち上がって身振り手振りを大きくして演じながら相談し、役割や演じる内容を決めていきます。さらに早々に練習を終えて、もうバッチリとの声も。

全5グループが1グループずつ発表していきます。練習バッチリという割には、人前で演じるとチグハグだったり背中を向けてしまっていたり、と発表の様子では演劇として立派なもの、というには厳しいものでした。しかし、発表がうまくいかなかったからと、誰かを責めることなく、観劇している生徒たちもしっかり見て大きな拍手で迎えていました。またエピソードを話してくださった方へ失礼がないような配慮も大いに感じられる、ほのぼのとしてストーリー展開でした。
以前では、発表の後で友だちを責めたり、観劇の様子も関心がないように見えたこともあったことからすると、「他者の尊重」という意識がしっかり成長しているように感じられました。

各グループの発表ごとに講師の先生からのフィードバックが行われます。先ほど述べたように発表の様子は厳しいものだったのですが、今回も素晴らしく的確にフィードバックが行われます。

特に中学校での教員研修で、毎回話題になるのですが、どうしたらそのようなフィードバックができるのかについては、簡単にいうと、結果ではなくそのプロセスを徹底的に観察していて、そこでの生徒の行動の狙いや思いを汲み取るようにして、肯定していく、ということでした。それによって、生徒は自分の行動を言語化してもらって肯定されることによって、自己肯定感を高めることができるのではないか、という点が、研修での大きな話題となりました。

課題としては、決断できる人が増えるといいな、ということも講師の先生からの指摘の一つでした。練習バッチリと言っても、ほとんどの人が本当はまだまだと思っている。その中で、もうちょっと練習しよう、と提案できる人はごくわずか。でもほとんどの人がもうちょっと練習した方がいいと思っている。この状況を突破する「決断できる人」が増えるといいのではないでしょうか…という指摘でした。

奈義中学校での次回は来年2月5日、平田オリザ先生がいらっしゃっての授業となります。

(黒瀬)